【CONCEPT】
「おいしい・気持ちいい・楽しい」
つながりによって実現する、持続可能な農業
佐賀県の酪農家で生まれ、子どものころから家業を手伝いながら暮らしてきました。しかし、父親からはずっと農業を「継ぐな」と言われていました。当時は、いい大学を出て、いい会社に入るか官僚になるか、それがいい人生だと言われてきたわけです。その後、いざ、自分が社会に出たとき、ふと考えたんです。自分が命がけで守り続けてきた仕事を、胸を張って子どもに勧められないのは哀しいことなのではないか、と。それが農業という仕事を選んだきっかけですね。株式会社ワンドロップファームが提唱する持続可能な農業とは、「子どもが継ぎたくなる農業」です。さまざまな持続可能性が叫ばれていますが、シンプルに考えると次代の担い手となる子どもたちが魅力に感じるかどうか、それがもっとも大切なことだと考えています。そのために、株式会社ワンドロップファームでは「おいしい・気持ちいい・楽しい」という3つのコンセプトを掲げています。つまり「おいしい」ものを作り、「気持ちいい」環境を整える、そして「楽しく」働ける状況をつくる。そうすることで親と子どものつながりだけではなく、人と人、会社と地域といったつながりが生まれ、持続可能なスパイラルが構築されると考えています。
ワンドロップファームの社名に込めた思い
株式会社ワンドロップファームは、養蜂によって里山の再生に取り組んでいます。ミツバチは環境生物と言われるほど環境の変化に敏感な生き物であり、また、全世界の2/3の作物は受粉によって作られています。つまり、ミツバチが住める場所を作ることによって、生態系のバランスのバロメータとなると考えています。ミツバチを集め、育てて、ハチが集めてきてくれたミツを販売する。その先には、ミツバチが快適に過ごせる里山の再生を見つめています。ミツバチが集めてくるミツは、一滴一滴かもしれないですが、それが集まると何十リットルっていうハチミツになります。逆に、一滴の農薬や一本の木を無駄にしてしまうと、自然も壊れてしまいます。そういった希望と自戒を込めた社名として「ワンドロップファーム」と名付けました。
視点を変えることで、全体のバランスが見えてくる
農業を始めたころは、害虫ばかりを見ていました。どう駆除するかという。でも、田畑の中には数えきれない数の虫がいます。それらを大別すると「害虫、益虫、ただの虫」に分けられます。それらの虫が絶妙なバランスをとりながら自然界を支えているというのが現実です。たとえば、害虫を駆除するために農薬をまきます。すると確かに害虫はいなくなりますが、同時に益虫やただの虫もいなくなってしまいます。問題はその後で、虫がいなくなった田畑に何かの拍子で害虫が入り込んでしまうと、その田畑は害虫だらけになってしまいます。つまり、害虫ばかりに目を向けるのではなく、田畑に住むすべての虫に役割があり、それぞれの全体像を掴む必要があります。
実は農業とは、そういったさまざまなつながりによるバランスによって成り立っている産業なんです。森と海がつながっているように、すべての人の生活はどこかでつながっている。そしてその中心にあるのが農業であり、里山なのではないでしょうか。私は、里山がある地域での暮らしこそが、これからの時代の最先端の暮らしだと信じています。だからこそ、この地で、養蜂による里山再生を目指しつつ、安全でおいしい作物を作り続けたいと考えています。